日本泌尿器科臨床史・22
産婦人科的泌尿器科学の系譜
友吉 唯夫
1
1滋賀医科大学
pp.82-83
発行日 1993年1月20日
Published Date 1993/1/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413900782
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日本において,女性の泌尿器,とくに膀胱や尿道の疾患は,現在では当然のように泌尿器科で取扱われているが,かつてはそうでなかった。子宮頸癌の膀胱浸潤の有無を知るのに,産婦人科医自身が膀胱鏡検査をおこなっていた。そのために,産婦人科学者によって著わされた書物まであった。当時岡山医大にいた安藤畫一による『膀胱鏡学』(吐鳳堂,1924)がそれである。膀胱鏡の構造,検査手技,諸種疾患の膀胱鏡による診断などが,きわめて詳細に解説されたもので,たとえば図1は,膀胱脱垂の程度に応じて膀胱鏡を立てるようにしないと尿管口が観察できないことを示しているのである。今から70年近くも前の記述で,文章も文語調であった。
この本の存在は,日本の産婦人科医に,膀胱鏡検査は自分でやるものだという考えを植えつけてしまうのに影響力があったと思われる。現在では泌尿器科への対診依頼が常識的となっているが,私が医師になった1950年代後半の頃は,子宮頸癌患者の膀胱鏡検査は婦人科病棟でルーチンにおこなわれていたのである。膀胱腟瘻や尿管腟瘻といった境界領域の問題を,泌尿器科側に大きく引き寄せる契機となったのが,1958年3月に熊本市で開催された日本泌尿器科学会総会におけるパネルディスカッション「婦人科的泌尿器科学」(司会:原田彰教授)であった。
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