ものがたり・日本の医学・事始・3
桂川家の系譜
しまね きよし
1
1“思想の科学”
pp.77-79
発行日 1967年3月1日
Published Date 1967/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661913083
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■学者たちをひきつけた自由・進歩的家風
わたくしの愛読書のひとつに,今泉みねが語った「名ごりの夢」という書物がある。最近,金子光晴の解説がついて,平凡社の「東洋文庫」から刊行されている。副題が,「蘭医桂川家に生まれて」となっているように,7代桂川甫周の子に生まれたみねが,娘時代の回想を子どもや孫に語って聞かせた想い出話である。金子光晴はその解説のなかで,つぎのように書いている。
「今泉みねがものがたるむかし語りは,彼女がまだ初々しい娘のころのなつかしいおもいでであって,ちょうど江戸300年の花の舞台が寵灯返しになる直前の,落日の余映に染まり,名ごりの夢の一つ一つが昇華して,それがもう,なおざりなおもいでではなく,こころの隅のかいやぐらとなって,その後のつらい世渡りの,精神の支えの役割をしてきたことを,考えからはずしては,老女のもつパッションを理解できないだろう。」
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