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透析時の血管痛の原因には,シャント血流障害,不適切なドライウェイト,穿刺針の位置異常による血管への刺激などがある.日本透析医学会発行のガイドラインによるアクセス関連疼痛のフローチャートでは透析中に血管痛を呈する場合に考慮すべき要因として,穿刺部痛,シャントより末梢の疼痛,シャントより中枢の疼痛の3群に分類し,それぞれの対処法として,市販のリドカインテープ薬貼付やボタンホール穿刺用ニードル使用,穿刺部位の変更,血流を下げる,末梢循環改善薬の投与,スチール症候群の治療,ソアサム症候群の治療,静脈高血圧の治療,疼痛部位を温める,などが行われる.私たちが経験したシャント肢血管痛を訴えた3症例は,紹介元医療機関で血管痛の要因の検索がすでに行われ,上述した項目に該当するものは可能な限りの処置が講じられたが,除痛効果なく万策尽きた状態であった.当クリニックに転入後もシャント肢の頑固な血管痛を訴えたため,度々予定した時間前に透析を終了せざるを得なかった.疼痛に対して我慢を強いる状態が続く最中に,透析時血管痛に著効した耳介治療に関する一編の文献1)を目にした.その報告では3症例にマイクロコーン(商品名ソマレゾン ; 東洋レヂン社)が使用された.この鍼灸用器具はウレタン製テープの中央に直径4mm(S),7mm(L)の樹脂性ディスクを有し,ディスク上に高さ300μmの微小な突起を53本(S),177本(L)配列した非能動型接触鍼の医療用機器である.絆創膏を貼る要領で耳介の臓器投影点「経穴(ツボ)―圧痛点」に刺激を与えることができる.耳介治療は反射療法の一種であり,人体を耳介に投影し,耳穴(みみず)と称する部位を定め,耳穴を刺激することより疾病や症状の治療を行うものである.1950年代にフランス人医師Paul Nogierは耳介という狭い領域に全身が投影されているとの仮説に基づき体系化している.投影されるポイントは出産前の胎児のようなパターンである.1987年にはWHOにより鍼灸経穴名称標準化国際会議が開催され標準43耳穴が制定された.私たちはWHO/PWHOによる耳介名称と向野義人氏の著書2)を参考にして,マイクロコーンを用いた耳介刺激の治療を3症例に試みた.
症例1 : 76歳女性,原疾患は膜性増殖性糸球体腎炎,透析歴13年,左前腕内シャント,4時間透析,左穿刺部位近傍痛より上腕痛(透析開始2時間前後に発症)に対して,耳穴全体を探索棒にて圧痛点(ツボ)を探り,同時に血管痛の部位と範囲を投影する点にマイクロコーンを透析開始直前に貼付した.貼付の時期は穿刺直後と穿刺前とバラバラで,貼付部位はその都度微調整を行った.フェイス・スケール(表情尺度スケール,6段階評価)で0(まったく痛みがなくとても幸せ)から4(かなり痛い)の範囲の結果であったが,0スケール評価の機会が多かった.
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