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新型コロナウイルス感染症の影響で,キャンパスは閉鎖されました.医学部に入学した新1年生は1学期の登校は一度もなく,授業はすべてリモートで行われ,同級生に会う機会すらありませんでした.学生教育担当教授はこの状況を不憫に感じ,夏休み期間中の2日間に初めてのリアルプログラムを開催しました.「慶應医学が誇る研究者,臨床家8人が慶應医学を語る」と銘打った「慶應医学ショーケース」に私を選んでいただき,6か月ぶりのリアル講義を行いました.マスク着用が義務づけられていたので,声がどうしても大きくなり,汗だくでヒートアップしてしまい,苦しくなって中断するハプニングもありました.しかし学生には好評で,「熱意がハンパない」「泌尿器科に興味をもった」など,ありがたい感想を頂戴しました.
有り余る時間を読書に使おう,ということで,推薦する本のアンケートがありました.私が好きな本はとても学生に勧められるものではないので困りました.そのとき頭をよぎったのが,『東大教師が新入生にすすめる本』(東京大学出版会)です.第1位はドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』でした.私ごとですみません.亡き父は電気工学を専攻したエンジニアでしたが,大変な読書家で,毎日の通勤時間を読書に充てていました.私も父の影響を受けてか,物心ついた頃から本は生活の一部でした.私が医学部5回生の頃だったと思いますが,父に一番好きな本を尋ねたところ,父は「好きな本は沢山あるが,一番薦めたい本は何かと言われればカラマーゾフの兄弟を薦める」と答えました.私は早速読み始めましたが,恥ずかしながら1巻で挫折しました.生前に父と感想を述べ合うことができなかったことに悔いが残っています.
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