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編集後記
大家 基嗣
pp.1016
発行日 2008年11月20日
Published Date 2008/11/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413101612
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2年後のサッカーワールドカップに向けて,最終予選がスタートしました。初戦のアウェーでのバーレン戦で勝利を収めてホッとした方も多いと思います。先日の新聞記事では,日本のサッカー熱は冷めつつあり,もしワールドカップに出場できなければ,危機的状況に陥るとのことでした。北京オリンピックでは予想どおりに世界の厚い壁を感じましたし,前回のワールドカップでも重い閉塞感を感じたのが思い出されます。前回のワールドカップで,さらに強いインパクトを与えたのは,中田英寿選手の突然の引退ではなかったかと思います。ほとんどのファンが「まだ引退には早い」と慰留を求めたい気持ちでした。しかし,「自分探しの旅をする」,「人生とは旅であり,旅とは人生である」というファンに対する長いメッセージを残してフィールドを去りました。
「人生とは旅であり,旅とは人生である」のフレーズは,三木清の『人生論ノート』に書かれている言葉で,高校時代に習った覚えがあります。ですから,彼の言葉に新鮮な印象を受けた訳ではありません。私が受けた強い印象は,むしろ中田ほどの成功者がなぜ今さら自分探しの旅を行う必要があるのかということと,自分探しは何も世界旅行をしなくても,日常生活が自分探しの旅ではないのか,と強い違和感を感じたからです。この中田選手の発言が現在の若者の「自分探し」に拍車をかけた気がします。現在の自分が存在する環境に違和感を感じると,本来の自分は別に存在するのではないか,自分探しが必要なのでは,という考えにつながるようです。正社員の採用を控える企業の流れと相応して,大量のニートを生み出している気がします。
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