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春の学会シーズンが終わり,気がつくと梅雨に入っていました。澄み切った晴れ空をあこがれると,1年前の出来事が思い出されました。それは東京大学の北村唯一教授が主催された日独泌尿器科学会での思い出です。会は和んだ雰囲気でありながら,学術的にも上手く組織されていたすばらしい会でした。会場は都内から,河口湖,さらに焼津へと移動していきました。河口湖では好天にめぐまれ,桜の季節が間近に迫っている,はしゃいだ気分の弥生(3月)でした。芦ノ湖に散策に出かけたときの,富士山の美しさが格別でした。見とれていると,兵庫医科大学の島 博基教授が私に向かって,「富士山の横に雲が見えるでしょう。先生よく見ていてください。あの雲を消してみせます」とおっしゃって,はるか遠くに見える雲に向かって手をかざされました。私は,「不思議なことをおっしゃるなあ。まあ見てみるか」と思ってじっと目を凝らしていると,驚いたことに,本当に雲が消えたのです。島先生は勝ち誇った様子で,横で奥様もふんふんとうなずいていらっしゃいます。あっけにとられていると,押し込まれるように遊覧船に乗り込んでいました。
東京に戻っても,その出来事が脳裏に焼き付いて離れません。空を見上げて雲を探し,じっと見つめます。東京の雲は富士山にかかる雲ほど美しくはありませんが,雲にはさまざまな形があることを再認識しました。しかし,いくら見つめても,雲は消えることはありませんでした。ますますわからなくなり,私の「雲をめぐる冒険」が始まりました。私は仮説を立てました。おそらくあの雲の消失は場所と時間に依存していたのではないか,ということです。富士山と雲。私は北斎の富嶽三十六景を調べました。芦ノ湖湖畔から見える富士山は「相州箱根湖水」という題がついていました。残念ながら雲は描かれてはいませんでした。
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