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【症例1】74歳,男性。
現病歴 2001年12月,尿潜血を指摘され受診した近医での腹部超音波検査で,膀胱の右側後部に5cm大の腫瘤を指摘された。
検査所見および臨床経過 初診時,末梢血白血球数が11,000/μlと増加していた以外,尿検査も含め自他覚所見に異常はなかった。腹部MRIではS状結腸に多数の憩室および結腸と膀胱に接する腫瘤が認められた(図1A)。膀胱鏡では,後三角部から頂部にかけて粘膜面が正常な隆起性病変が認められた。大腸内視鏡では明らかな粘膜病変はなかったが,腸管の可動性は消失していた。S状結腸憩室炎に起因した良性炎症性腫瘤と診断した。患者の強い希望により,経過観察を行った。3か月後,頻尿,排尿時痛,糞尿,発熱が出現した。注腸造影では,瘻孔は確認できなかった。Dynamic MRIでは,腫瘤の内部に線状の高信号域が認められた(図1B)。膀胱鏡では,隆起性病変の粘膜浮腫が著明で,中央部から膿汁様分泌物の流出が認められた。
S状結腸憩室炎に起因するS状結腸膀胱瘻と診断し,手術を行った。術中所見では,S状結腸に多数の憩室が認められ,S状結腸前面と膀胱後壁の癒着が強度で,剝離が困難であった。腫瘤を含め,一塊として膀胱部分切除術およびS状結腸部分切除術を行った。病理組織所見では,膀胱粘膜からS状結腸粘膜にかけて炎症細胞浸潤を伴った肉芽腫が認められ,内部に壊死や出血が認められたが悪性所見は認められなかった(図2)。
【症例2】72歳,女性。
現病歴 2002年10月,腹痛,頻尿のため近医を受診し,諸検査により手術不能浸潤性膀胱癌と診断され,セカンドオピニオンを目的に当科を受診した。
検査成績 血液所見では,CRPが0.6mg/dlと軽度上昇していた以外,異常はなかった。膿尿が認められたが,尿細胞診は陰性であった。排泄性尿路造影では,膀胱後壁の不整が認められたが,瘻孔は認められなかった。Dynamic MRIでは,S状結腸に多数の憩室が認められ,S状結腸と膀胱の間に膀胱内に突出する造影効果のある腫瘤が認められた(図3)。膀胱鏡では,膀胱後壁を外部から圧排する腫瘤が認められた。腫瘤の粘膜面は浮腫状で,腫瘤中央部から便汁の流出が確認された。大腸内視鏡では,腫瘍性病変はなかったが,腫瘤近傍で強い屈曲が認められた。
S状結腸憩室炎に起因した炎症性腫瘤によるS状結腸膀胱瘻と診断した。手術所見では,S状結腸から下行結腸にかけて多数の憩室が認められた。膀胱とS状結腸は強固に癒着していた。憩室が多発している部分と腫瘤を含め,一塊として膀胱部分切除術およびS状結腸部分切除術を行った(図4)。病理組織所見では,腫瘤は膀胱粘膜からS状結腸粘膜にわたって著明な炎症細胞浸潤を伴った肉芽腫で,S状結腸憩室炎による炎症性肉芽腫,およびS状結腸膀胱瘻と診断した。
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