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若い女性が「顔の傷跡を治したいのですけれど……」ここから長時間にわたる患者との問答が始まる.レーザー治療をしているあざの患者を目の前にしてレーザーの効果はどうなのだろうか?写真台帳をめくりスライドを探し,小さなリバーサルフィルムをかざしてジーと見つめうーんとうなる.術前検討でポラロイド写真をコピーしてデザインするうちに写真は鉛筆で真っ黒.学生の講義に分厚い教科書の索引を見てあちらこちらページをめくるうちに学生の目はうつろ.腎機能障害患者にアシクロビルを投与するためにクレアチニンクリアランスの計算式は?等々.もっとスマートにできないものだろうか?と考え,趣味が高じて,これらすべてをコンピュータにやってもらうようにしてしまった.患者の病名情報,皮膚疾患の要点,診療のメモ書きなどの文書データ,臨床写真,組織写真などの画像データを苦労してすべてコンピュータに放り込み,簡単に検索,表示,カラー印刷できるシステムを作成した.苦労したおかげで,これまで診察室で長時間を要した患者への説明も,机上にある21インチのモニターいっぱいに映し出された大画面の写真をみれば一目瞭然.学生の目も輝きだし,術前検討もカラープリンターに印刷あるいはモニター上で検討できる.困難な症例は電子メールで他の皮膚科医,形成外科医と検討している.しかしモニター上の画面をじっと見ていると,なにか訴えかけるものがない.皮疹のビットマップのみでは表現できない感覚的なもの,皮膚全体さらには患者をとりまく皮膚疾患特有のオーラといったものを写真上ではとらえることができない.逆に,苦労して経験して得られたものは脳に強くインプットされ決して消去できないものとなっている.今後もひとつひとつの症例を大切にして,貴重なデータを脳とハードディスクにインプットしていこうと思っている.
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