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何年ほど前からであろうか.タクシーに乗ると道順を確認されることが多くなったのは.行く先を告げ,さあこれで目的地に着くまでゆっくりしようと思っていると,「どのようなルートで行きましょうか.」と聞かれるのである.途中でもAかBかのあまり違いのないルートの選択をせまられる場合もしばしばである.乗客の自己決定権を尊重してくれているのだと解釈し,あれこれ考えて「それでは,Bのルートでお願いします.Aは結構混みそうですから.」そして行ってみたところ,不幸にして渋滞にまきこまれてしまい,これは自分の責任だと思わざるを得ない状況になってしまうこともよくある.「早そうなほうでお願いします.」と責任放棄をすると不愉快そうにされる場合もあり,なかなか目的地まで気が抜けない.寝ていたりボーッとしているとよい乗客とは言えないのである.
そうこうしていると,医療においてもインフォームド・コンセントの必要性が強調されるようになり,患者さんの同意を確認したり,承諾書を書いてもらう機会が増えてきた.専門性の高い医療行為を判断してもらうには,まずこちらの説明を十分理解してもらう必要がある.逆の立場になってみると,余計な負担をかけているのではないかと思うこともしばしばである.なかにはタクシーに乗って私が感じたように,「そちらもプロなんだから,よろしく頼みますよ.」と煩わしく思われている場合もあるのではないか.ここはしっかり説明する必要があると話し始めたところ,ポツリと「まあいろいろあるでしょうが,先生のいいと思う方法でお願いします.」と拍子抜けする場合など,信頼されていると解釈することにしているが実際どうなのであろうか.いずれにしろ,最適のルートで速やかに目的地に到着すればお互い満足できるのは間違いないのだが.
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