Derm.2015
皮膚病からの告白
室田 浩之
1
1大阪大学大学院医学系研究科皮膚科学教室
pp.170
発行日 2015年4月10日
Published Date 2015/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412204438
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診断を導き出せたときは嬉しいが,困難なときは苦しい.皮膚疾患は時に多彩な皮膚病変や誘因の想像できないような表現型を示すほか,経過中に全身症状を伴うこともある.よって皮膚科医は見える症状と見えない症状の双方を診て,互いの関係を考える.そこは皮膚科医としての腕の見せ所である.診察の時点では点と点が線で結びつかない場合もある.その際,患者の経過を注意深く観察し,次の手がかりを追う.
近年,診断基準の整備が進み,一部の疾患では非専門医でも診断基準に基づいた「診断」が可能になった.診断基準は疾患を見逃さないための基本情報として重要な役割を持つ.ところが,たとえ診断基準を満たしていても「それでいいのか? それだけなのか?」と診断に違和感や疑問を感じる症例に遭遇することがある.治療や検査の根拠について他者から承認されるためには診断基準に基づいた診断も必要だが,診断の際に生じる違和感といった勘を大切にするよう心がけたい.余談だが,「挫折」は承認につながるステップとの見方もあり,大きな挫折も経験すべきだと哲学者の竹田青嗣さんはいう.皮膚疾患の診断において,ある時点の診察では納得のいく診断がつかずに挫折しても,時間経過を経て診察のなかで生まれるヒントが診断につながることもある.物理学者の寺田寅彦さんの言葉にある.「科学者になるには自然を恋人としなければならない.自然はやはりその恋人にのみ真心を打ち明けるものである.」 私は日常診療に当てはめて,皮膚病とじっくり向き合うことで皮膚病のほうから診断を打ち明けてもらえるのではと期待を寄せているのだ.そのために日頃の挫折を大切にし,対峙することを楽しめればよいなと考えている.
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