発行日 1948年12月15日
Published Date 1948/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906405
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私の友人小松は,いつしよに召集され,いつしよに出征して,復員するまで6年というもの苦樂をともにした男である。彼はマレーのバホウというところの戰闘で,あぶなく死ぬところであつた、鐵帽を射ぬいた小銃彈がくるりと一囘轉して飛びだし,鐵帽に大きな出入口の穴があいた。頭にかすかなかすりきずが赤くのこつただけである。まつたく,奇蹟的ないのち拾いだつた。俺は絶對大丈夫だ,戰爭じや死なん,かならす生還する,と彼は大言壯語して,私たちと笑いころげたものである。
彼は終戰後,私といつしよにレンパン島に抑留されたが,相前後して復員した。若い妻と,すでに學齡期にたつした長男が彼の歸還を迎えて,うれし泣きに泣いた。ところが,ぽつくり死んでしまつたのである。彼がたしかに生きて還つた證據は,妻の腹にあたらしい生命を宿したことであつた。病名はマラリアで,大へん脾臟が腫れていた。
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