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毛嚢,脂腺,汗腺などの皮膚附属器は,結合織にとり囲まれて真皮内に存在している.しかしそれは,樹木の根のように掘り起し土をとり払つて,それだけをとり出すようなわけにはいかないので,皮膚附属器をあるがままの形態で観察することは不可能に近い.崖くずれによつて樹木の根が見えたとする.それは四方へ延びている根の一断面を見ているにすぎず,普通の組織像があたかもそれに相当するものであり,根のごく一部を観察するのが電顕像というふうに考えてよいであろう.皮膚附属器は正常でも部位によつて,年齢によつて,また個人差によつて変化し,variationに富んでいるし,病的過程によつて著しい形態的な変化を示してくる.それらの形態,大きさ,相互関係の変化を全体として把むことは,電顕像ではもちろんだめだし,普通の光顕像でもきわめて困難である.とくに毛嚢の正常hair cycleに際しての形態的変化,円形脱毛症などのときの病的な変化過程は,連続切片の観察によつても大変むずかしいことである.ある都市での災害において,一局部の詳細な分析,検索と同時に,なによりもまず,災害の規模,範囲などの全体的観察調査が行なわれるように,皮膚附属器の形態学的観察が,全体的,立体的に行なわれるとしたら,今まで漠然としていた事柄が幾つか明瞭になつてくるであろう。"木を見て森を見ない"ということでなく,木も見るがまず森を見ようということである.
毛嚢脂腺系を研究してきた筆者は,以上のようなことから,立体的な組織構造を把む簡便な方法がないものかと考えた.そこで思い出したのが,筆者が入局した年に抄読会で読んだLeachの論文1)であり,たまたまそのころ掲載されたSander-son & Thiedeの論文2)を参照し,この方法にならつて500μ厚の切片を観察することを現在の鷲尾助教授にやつてもらうことになつたわけである.それは昭和36年であつた.以来この方法を現在も用いており,ときには他の方法も併用しつつ毛嚢脂腺系,汗管などの立体的観察を行なつている.この方法は採取した組織片中に含まれる皮膚附属器の様子を,ごく少数の切片で全部観察できる.たとえば0.5cm厚の皮膚組織について連続切片を作るには,普通の方法では10μの厚さとして500枚を要するが,この方法の500μ厚切片だと10枚の切片で充分であるということになり,かつ核染色のアントラセンブルー染色は透光性で実体顕微鏡で観察することにより立体的に検討できるのである.厚切片の観察・検討法にも若干の工夫が加えられ,また再構築模型を作製して参考にする.従来の平面的な所見に,three-dimensionalな所見を加えようとするこのような検討に対し,stereohistomorphologyと呼称している3).
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