海外見聞記
ラテンアメリカ便り(10)—ドミニカ
大城戸 宗男
1
1慶応義塾大学医学部皮膚科
pp.183-184
発行日 1970年2月1日
Published Date 1970/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412200621
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革命騒ぎに巻き込まれた青年アベルがオノリコ河上流のアマゾン地域の熱帯林に逃げ込み,そこで神秘的な美少女リマに会い恋に落ちる話はハドスンの小説で,現実が厳しいのは今迄述べた疾患のみを考えても容易に判る。土地の大学には多種の熱帯病の症例が入院しているが,leishmaniasisの皮膚又は皮膚粘膜型は少さな村でも簡単にみられる。この南米では両型が存在するのでお互いの鑑別には皮膚潰瘍のみをみただけでは困難で,field medicineを行なうものには面倒なことである。
平安時代とジェット機時代が奇妙にまざり,アマゾン河口から1500km上流にあるマナオス市では秋葉原の如く日本製品が氾濫し,国際航空のジェット機も頻繁に出入りする。周辺のジャングルに入るにはテコテコと称すセスナ機に乗るのが近道だ。この定員3〜5人の空のタクシーはしばしば墜落するが,あまり低空を飛んでいるので樹にひつかかつて全員助かる。しかし不幸はその后で密林の中では樹が高すぎて降りられず降りても危険が多すぎるので結局樹の上で飢死する。しかし無事に着いた開拓地はすばらしい。戦前海外雄飛の先駆者とか無限の沃土の開拓者との美辞麗句で貧農を棄民にした話を書いた石川達三の蒼氓にしても,戦后角田房子のブラジルの日系人に関する悲惨な話にしても昔のことであとしばらくすればヨーロッパの棄民が作り上げたアメリカ同様に超一流社会が生まれてくるのは間違いない,実際このジャングルの中に政府がアマゾナス大学医学部を4年前に開設し,その学生の中に多くの日系人をみた時はその感を益々深くさす。
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