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どこへ行つてもむし暑くうだる様で,そこに北から風が吹くと,これがたまらなく暑さを増すので冷房が恋しくなるが快適な喫茶店がある訳でなし,これ迄泊つたホテルにもそれはないから睡眠不足が続く。夜中に起きてシャワーを浴びるが,お湯が出ないので風邪をひくのは我慢できるとし,時には水さえ出ない。リオデジャネイロで泥水が猛烈な勢いでふき出してきたのには弱つた。しかしもつと弱るのは水道の水が飲めないことである。昼間はコカコーラばかり買つてすませるが,夜中にあまり渇くので我慢できず水を飲むと下痢をする。途中で会つたボリビアの衛生局長やアルゼンチンの医者は自宅に濾過器を備えていると自慢していたが,旅行者にはそれも不可能。ここらあたりまで旅が続くと,同行3人は交代に下痢をくり返えし,それも時々血性となる。細菌性赤痢か病原性大腸菌か判らぬが,あわててクロマイを内服するから診療用に準備した筈のが足りず街に出た時薬局をさがして買い込む始未。これが耐性菌をつくるのは判つているが,ままならぬのが人情である。それならコカコーラばかり飲んでいればよさそうだが,現在海外技術協力団よりブラジルのペルナンブコ大学の訪問教授になつている寄生虫教室の浅見敬三先生にいわすと,レストランで飲むコカコーラの中に入つている氷がどの様な水から作られたかを考える必要があり,さらに氷を入れず生ぬるいのをと云つても,そのコップがいかなる水をもつて洗われたかを考える必要があると教えられる。暑さと下痢で疲れて寝ると蚊とブヨの攻撃がある。あきらめて体中刺されぱなしで翌朝おきると,靴をはく前に片方ずつ持つてトントンとたたかないと,中にサソリが入つていて危険である。
アルゼンチンのブエノスアイレスでは2日間で近郊の移住地の調査を終り,翌日は市内の病院見学,夕方には遠距離バスに乗り15時間かかり大草原を横断し,次の目的地アンデスに着く。午前に着くから昼食後直ちに調査,翌日は午前が病院訪問で午後はもう飛行機に乗るという超人的なスケジュールにもつてきて,先年この国に派遣されてくびになつた有名な大使から日本の悪口を聞かされるという幕間もあり,パラガイの首都アスンシオンに着き,ホテルの部屋に入つた時は心からほつとした。ホテルは小さいが中央公園に面して清潔であり,しかもルームクーラーを発見した時の喜びは大変で,このアメリカ製の古いボタンというボタンはすべてとれ,大きな音をたてる機械が頼もしく思える。しかも最近アメリカの援助で,ここの水道工事が完了し,水は安心と聞いては,ついこの前迄ロバに乗つた子供が水を買いに行く風景がみられなくなつたのも残念とは思えない。夜も庭先きで原住民のグアラニー音楽をききながらのビールはうまく,しかも住民の96.5%がスペイン人と原住民の混血の為1)我々に似ていて心をゆるす。
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