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また,「あとがき」の順番が回ってきました.実は私は「あとがき」を書くのが大嫌いなのです.まず,書く題材を時代背景に会わせて吟味しなければならないこと,次に少しでも蘊蓄を垂れるような文章にしなければならないこと,誰が読むかわからないことなど,会話のなかの瞬間芸で生きている私にとっては頭痛の種です.でも書きます.
身近な話題ですが,昨年暮れから今年になってもまだくすぶっている降圧剤Dを販売する大手製薬企業N社が絡んだデータ改ざんの件です.国がN社を薬事法違反で東京地裁に訴えており,大問題になっています.私が属する大学が直接関与していたこともあり,直ちに調査委員会が立ち上げられました.どうも血圧のデータが改ざんされたようですが,どの時点で誰が操作したのかがいまだに判明していません.ただ,臨床研究の統計解析にN社の社員が深く関与していたのは間違いなく,研究体制作りの際のわきの甘さと利益相反という日本の医師(研究者)が今まで目を逸らし,先送りにしてきた問題が浮き彫りになりました.以前より,各学会,大学等でも利益相反の指針作りが進められてきましたが,ようやくまとまりつつあり,特に臨床研究を行う際の倫理および供与された研究費の適切性の検証が厳しく行われていくことになるかと思います.われわれの大学でも公正な立場で臨床研究をサポートできるような統計,研究立案の専門家を入れたセンターの体制作りが始まりました.皮膚科は直接の関与はありませんが,大学全体としてN社のMRは原則として出入り禁止,奨学寄付金は受け取らない,講演会・研究会への参加は禁止という状況が続いています.本誌でも薬剤等が関与した臨床研究論文を査読する際に編集委員から利益相反の有無が質問されることがありますが,別段恥じることは何もないので正直に申告していただきたいと思います.
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