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趣味にも世代差がある.オーディオはその最たるもので,こういうものに興味を惹かれるのは専ら50代以降の男性である.なぜだろうと考えていくうち,ある考えに思い当たった.われわれの世代がオーディオに興味をもった青年期,アナログはまさにその最盛期を迎えていた.しかし,80年代に登場したCDに代表されるデジタル化は,安価で一定の質の再生音を多くの人にもたらした反面,趣味としてのオーディオは急速にその熱気を失っていった.その結果,オーディオはそれ以後の世代の趣味となり得なくなってしまった.この現象はオーディオに限らない.どの分野でも,デジタル化される直前に最もエネルギーが高まり,デジタル化ととともにその熱気は急速に醒めていく.
臨床医学において診断基準や検査法の確立は,まさにデジタル化に他ならない.皮膚科で言えば,検査法としてのデスモグレイン-1,3やDIHSの診断基準の確立などがそれに相当する.このようなデジタル化により,誰でも容易に一定の診断が可能になるため,臨床家にとって(デジタル化の手段としての)検査法や診断基準の確立は,一つの夢となる.その夢を現実のものとするまでの過程は苦しみもあるが,楽しさもある.しかし,それがいったん確立されてしまうと,その後の世代は,それを当然のこととして受け取り,そこに至る過程を全く考えなくなる.デジタル化される前のアナログの世界では多様性が許されるため,人々はその違いを討論する厳しさと楽しさを味わうことができる.われわれより前の世代の方々が,学会で口角泡を飛ばして議論していたことの多くは,このようなアナログの差違だったのではあるまいか? 夢を現実のものとした結果が,逆に未来の人々の夢を奪うとしたら,それは何と皮肉なことだろうか?
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