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われわれ,医師・医学者は科学者であり,その意味で論文では科学的,論理的な正しい文章表現を用いるべきです.もちろん,国語の先生ではないので,「正しい文章とは」と問われても,回答は難しいのですが,私としては「てにをは」を正しく使って,伝えたいことを読者に正確に理解してもらえるように,あるいは曖昧な表現をしないように心掛けています.本誌も学術雑誌ですので,それがとても重要と考えて投稿原稿を審査しています.よくあるのは,主語のない文章や「体言止め」の文章です.前者は,著者がわかっていても読者は「主語」を類推しなくてはなりません.後者は,例えば「…が出現.」としてしまうと,実は「…が出現した.」「…が出現する.」「…が出現する可能性がある.」など,いろいろな解釈があり,しかも乱暴な言い方です.学会発表の抄録やスライドでは字数制限があり,やむを得ず「体言止め」を使うのですが,そのままの文章で論文にしてくることも多いのです.かといって,主語・述語などがしっかりしていても,同じ言葉の繰り返しも見苦しく,よくあるのは「…を認めた.…を認めた.…を認めた.…」です.間違いではないのですが,表現力不足を自ら暴露するようなものです.例えば「細胞浸潤を認めた.」は,「細胞が浸潤していた.」とすれば,繰り返しは回避できます.それと,とても異様な日本語として「…となった.」という表現が多いのです.これは学会発表でもよく聞かれます.確かに「時刻が正午となった.」「色調が白となった.」など,表現としておかしくない場合もありますが,「患者は入院となった.」「患者が手術となった.」などはきわめて変な文章です.つまり,「時刻=正午」「色調=白」は成立しますが,「患者=入院」「患者=手術」は成立しません.「患者は入院した.」「患者が手術を受けた.」とすれば良いのですが,「…となった.」が何か格調高い表現と思っている人が多いようです.ときにテレビやラジオのアナウンサーも,特に民放では,そのような言い方をしています.これは伝染病です.「となった」病に罹らないようにしましょう.
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