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いつもしているわけではないが,料理を作るのが好きである.男の料理は,高価な食材や調味料を揃えて,レストラン並の作品を目指し,後片付けはしないというのが定番であるが,私は冷蔵庫のなかの余り物などで短時間で即興料理を作り,完成と同時に洗い物も完了という流儀である.段取りが命であり手術や実験と共通する点が多いので,おそらく皮膚外科を生業とする先生方は皆手際がよいであろう.年末でテレビは特番が多く,騒々しさを避けて料理番組にしてみると,有名料亭の板前さんが豪華なおせち料理を作っていた.食材の吟味,手間暇のかけ方,技術,どれをとっても説明を聞いたからできるものではないし,やろうという気にもならない.以前,同番組でおにぎりの回があった.ご飯を炊飯器で炊いて塩むすびをつくるというもの.“手やじゃもじに水を付けるとご飯がくっつかないのでいいですよ”がコツとして披露された.あまりに基本過ぎて,こんなのテレビでやるかと驚いた.手術ならば豪華おせちは悪性腫瘍広汎切除,おにぎりは母斑切除縫縮といったところであろうか.しかし手術にたとえてみると,これらを難しい,簡単と呼ぶことに抵抗を感じる.たしかに前者は多くの基本的技術を習得し,経験を積んで初めて執刀できるもので,後者は最初に習う基礎的手術である.難易度に差はあるが,両方とも手術前の段取りを抜かりなく,実際手を動かす場面では注意を怠ることなく基本に忠実に,そして終了後の固定やケアをしっかりする,それにその人なりの技術経験を積み重ねてこそ,一人前領域まで到達できるものであろう.菅首相が,“米を一番うまく食べる方法は塩だけのおにぎりだ”と述べていた.米,水,研ぎ具合,炊き方,握る技術がうまくいったおにぎり.同感である.日本で一番その塩むすびをうまく作るのは,有名料亭の料理長でも,有名レストランのシェフでもなく,毎日家族のため作っているおかあちゃんのなかにいるのではないか.日本で一番ホクロの手術が上手な皮膚科医はどこにいるのだろう?
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