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Ⅰ はじめに
今年のノーベル医学・生理学賞は,iPS細胞を開発した山中伸弥京都大学教授が受賞した。遡ること本年6月,スウェーデン,ストックホルムで開催された国際嗅覚味覚シンポジウム(ISOT)出席の際,学会の合間に会場近くに建つノーベル博物館と市庁舎を訪れた。市庁舎のホールは,毎年12月10日にノーベル賞授賞者を祝う晩餐会で華やぐ。われわれの訪問時は観光客のみであったが,さらに遡ること8年前の2004年に,ノーベル医学生理学賞を受賞した2名の嗅覚研究者が時は違っても同じホールにいたことを思うと,感慨深いものがあった。ノーベル賞を受賞したのは米国の研究者,Richard Axel氏とLinda Buck女史であり,嗅細胞におけるにおい受容体をコードする遺伝子を発見した功績が認められたものである。発表は1991年のCell誌1)であるが,彼らの報告以来,それまで謎とされていたにおい受容の機構が,わずか10年余りという人類の歴史では瞬時ともいえる間に明らかになったことを考えると,やはりノーベル賞の価値は十分過ぎるくらいある。
本稿のタイトルはにおい受容と遺伝子である。遺伝子の異常による嗅覚障害といえばKallmann症候群が有名であるが,その発症頻度は50,000人に1人ときわめて少ない。また,嗅神経といえば再生が際立った特徴である。再生にかかわる因子ならびにそれらを発現する遺伝子も明らかにされつつあり,再生医療への応用も試みられているが,まだ基礎研究が緒に就いたばかりである。したがって,本稿では嗅覚受容を操る遺伝子について解説する。嗅覚受容に関する一連の研究には日本人も数多くかかわっており,仕事の合間に気楽に読んでいただければ,著者として本望である。
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