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正直まいったなと思った.解析を進めていたメダカミュータントheadfish は胴尾部のほとんどを欠損するという重篤な表現型を示すことから,脊椎動物の胴尾部,ひいては中胚葉組織の発生に重要な新規遺伝子を明らかにできるのではないかとかなり期待していた.劇的な影響を受ける胴尾部に対して,頭部はほぼ正常に形成されるというそのコントラストも興味を駆り立てた.しかしポジショナルクローニングで,原因遺伝子の候補として浮かび上がったのは,fgfr1a(fibroblast growth factor receptor 1a :メダカのfgfr1の1つ)だった.当時すでにアフリカツメガエルの実験系で,FGFシグナルを遮断すると中胚葉組織の分化(維持)が阻害されることが知られていたため,中胚葉組織に異常があるheadfish の原因遺伝子がFgfの受容体だと示しても,「そりゃそうだろ」と言われて終わってしまいかねない.間違いであってくれと願いながら,その可能性を否定する結果を期待しつつ実験を進めたが,遺伝学的マッピング,モルフォリノによる機能阻害実験,正常mRNAのインジェクションによるレスキューなど,原因遺伝子がfgfr1a であることを裏付ける結果が集まった.ミュータントスクリーニングを始めてから3年が経っていた.どうやってまとめようか.折しもラボメンバーも同じくパブリケーションで苦戦していた.メダカでミュータントの表現型を解析し,原因遺伝子を単離して遺伝子機能の新しい側面に迫る論文を書いて投稿していたのだが,なかなか受け入れてもらえなかった.小型魚類を用いた発生研究は,世界的にはゼブラフィッシュを用いた研究が広く展開していて,俺たちのシマに入ってくるなと言わんばかりの論文査読をする輩も少なからずいた.メダカはダメなのかと自信を失いかけることもあったが,めげずに出し続けるしかないとボスや仲間から励まされた.
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