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Ⅰ はじめに
頭頸部癌は大腸癌や肺癌など他領域の癌に比べて基礎研究の面で遅れているのが現状である。その理由として頭頸部癌は一言で「頭頸部癌」と称しても亜部位が多く,それぞれが独立した特徴をもつために,頭頸部癌全体を一括りに解析しても明確な姿がみえてこなかったことは当然である。胃癌,肝癌,膵癌を「腹部癌」として取り扱わないのと同様に,頭頸部癌も亜部位をそれぞれ明確に区別して検討する必要があったと思われる。その点において近年の画期的な報告は,何といっても中咽頭癌とヒトパピローマウイルス(HPV)との関係である。従来,頭頸部癌の発癌要因としては喫煙と飲酒が2大リスクであることは広く知られていたことであるが,この数年でHPVが中咽頭癌,特に口蓋扁桃原発の扁平上皮癌の要因としてクローズアップされてきたことは注目すべきことである。HPVが原因の中咽頭癌は,喫煙や飲酒が原因で発症した中咽頭癌とは異なる生物学的特性を有し,同じ中咽頭癌であっても全く異なる腫瘍であることがわかってきた。
一方,検査技術の発達に伴い遺伝子検索を高速大量処理することが可能となり,今までみえてこなかった複雑な発癌の遺伝子ネットワークも徐々に解明されつつある。その成果としては2011年に“Science”誌で発表された頭頸部癌におけるNotch遺伝子があり,今後はさらに未知の遺伝子の関与が解明される可能性がある。
今までの癌研究はp53,EGFR,RASなど個々の遺伝子変異や欠失の検索に力が注がれていたが,現在ではDNA配列異常,染色体異常,DNAメチル化などのエピジェネティック修飾,マイクロRNAなど多くの検索項目から包括的に癌を捉えることが必要であると考えるようになってきた。しかし,今後はこれらの検索から得られた大量の情報量をいかに解析するかが重要な問題となるであろう。
今や癌研究はすさまじいスピードで進化しており,それに追いつくことは一般の医師にとっては並大抵のことではない。「癌の概念」も10年前と比べて大きく変化しつつあり,それを理解するのも容易ではない。本稿では「癌の概念」をわかりやすく解説し,頭頸部癌における遺伝子研究の現状についても述べたい。
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