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今回のあとがき執筆の締切は66回目の終戦記念日の8月15日です。今年の終戦記念日はこれまでとは少し違う意味があります。8月9日の長崎原爆の日に長崎市の田上富久市長は初めて脱原発依存を宣言しました。3月11日の東日本大震災により発生した福島第一原子力発電所事故はいまだに収束の兆しもありません。原発の安全神話には大きなヒビが入ったままです。1945年8月に広島と長崎が被爆し,日本は世界で唯一の被爆国となりました。1954年3月にはマーシャル諸島近海において操業中であった第五福竜丸がビキニ環礁で行われた水爆実験(キャッスル作戦)に遭遇し,放射性降下物に被爆しました。そして今回の福島第一原子力発電所事故です。これだけ原子力に翻弄されてきた国もありません。甲状腺疾患を扱うわれわれ耳鼻咽喉科医にとっても放射線被曝は大きな問題です。原爆と原発は根本的に異なるものですが,原子力の安全平和利用とクリーンエネルギーによる脱原発依存の是非に関して国家的議論として真剣に検討することが被爆国日本の重要な使命だと思います。
さて,今月号の特集ははからずも放射線の平和利用の最先端「これを読めばPETがわかる」です。「PETの基本原理とpitfall」をPETの第一人者である獨協医科大学PETセンター長の坂本攝先生に解説していただきました。各論は頭頸部扁平上皮癌,甲状腺・副甲状腺腫瘍,唾液腺腫瘍,悪性リンパ腫の診断のためのPETから大脳機能画像としてのPETまで,まさにPETのすべてがわかります。目でみる耳鼻咽喉科は「OK-432硬化療法が著効した舌根部正中頸囊胞」,原著は「結核性中耳炎」,「両側耳下腺・涙腺腫脹で発症したサルコイドーシス」,「TPF療法による化学放射線交替療法が著効した頸部食道癌気管浸潤例」,「対側の舌下神経麻痺を含む多発性脳神経障害をきたしたハント症候群」,「血腫除去を必要とした眼窩骨膜下血腫」の各症例報告です。いずれも臨床の現場で遭遇しそうな症例であり,大変参考になると思います。原子力のことも頭の片隅でお考えいただきながら,ぜひ一読していただきたいと思います。
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