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耳鳴の中枢性発生機序と外科治療の開発
Neural plasticity of the brain and tinnitus:TMS as a new treatment for severe tinnitus
土井 勝美
1
Katsumi Doi
1
1大阪大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科
pp.199-204
発行日 2008年3月20日
Published Date 2008/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411101215
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Ⅰ はじめに
耳鳴とは外界からの音源なしに耳内もしくは脳内で聞こえる音の幻影知覚(auditory phantom phenomenon)と考えられる1)。総人口の10~15%が消えることのない耳鳴を認識するとされ,若年者から高齢者までどの年齢層にも起こり得るが,年齢が上がるにつれて慢性耳鳴を訴える割合は高くなる。総人口の1~5%では,耳鳴は不安,うつ状態,不眠,就労不能あるいは精神的苦痛といったQOL(quality of life)の低下を招くに十分な大きさとなる2)。感染(細菌,ウイルス),内耳毒性の薬剤(サリチル酸,アミノグリコシド系抗菌薬),騒音,加齢などの環境因子と遺伝的素因を病因とする感音難聴に伴って耳鳴は発生するが,高齢者では加齢が,若年者では騒音(職場,ミュージックプレイヤー,コンサート)が内耳障害の主因である。世界的にみて数百万人のヒトが耳鳴をQOLへの脅威と感じ,ある種の内科的・外科的治療が耳鳴への適応を促し,あるいは,耳鳴の性状を変化させ得ることが確認されてきた。しかしながら,耳鳴自体を消失させる根本的な治療法は現時点では確立されていない。
最近,神経科学や脳機能画像診断学の進歩により,これまで十分には解明されてなかった耳鳴発生の脳内機構に関する新知見が相次いで報告されるようになった。感音難聴に伴う耳鳴の中枢性発生機序を知ることは,耳鳴の治療法や予防法の開発・確立に不可欠であり,同時に,音感覚の脳内認知機構を知るうえでも重要となる。
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