- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
本号が発刊されるころには,平成20(2008)年に各大学耳鼻咽喉科に入局する医師の数がほぼ決まっていることと思います。臨床研修医2年生は従来どおりすでに夏ころから入局科を明らかにしている人から,どの科を回っても執拗な勧誘の嵐のためか口を硬く閉ざし,締め切りまではっきりと入局科を言わない人が多いのも今年度の当院の特徴です。この時期入局の少ない科では接待はもちろん,医局長が研修医の自宅まで電話,メールをして勧誘につとめています(結構,逆効果のことも多い)。かつての学生時代の勧誘とは異なり,より売り手市場となり,やや不健全な感じは否めません。東京のど真ん中のしかも比較的名の通った,患者数も多い臨床病院ですら科によっては同様の入局減少がみられ,都市部と地方の格差という単純な形でもありません。一見理想的にみえる新臨床研修制度も実際はまだまだ問題点があることは,実際の医療の現場に携わっている先生方は周知のことです。地域病院はというと大学病院の人出不足のため関連病院からの引き上げのほか,勤務医の労働条件などさまざまな理由から大学にもどる前にすでに開業というケースも多く,ある県では内科医全員退職で内科病棟閉鎖という総合病院まで出現しています。またモデルケースとして比較的成功している病院も散見されますが,全国のすべての病院が理想的な形になるまで日本の地域医療がもつのかという危惧も抱きます。将来の耳鼻咽喉科を考えた場合,臨床も研究もマンパワーが基本であることはいうまでもなく,幅広い領域をカバーしていかなければならないこと,無床診療所から入院・加療の必要な患者の紹介先である中・小病院耳鼻咽喉科の保全,がんセンター,大学病院の医師の確保が大切です。全医師数の割に多くの科が枯渇した感じがするのは,医師の都市部偏在化のほかに病院での常勤・当直業務までは希望しない(パートタイマー),あるいは家庭の事情でそこまではできない(女性医師に多い),9時~5時の勤務をしたい(かつては考えられないQOLを優先する価値観)などの理由も結構多く,地域病院の常勤医師数減少の一因になっています。開業,いわゆるパートタイマーの医師,病院各施設の医師数のバランスと良好な連携が切望されます。またマスコミが伝える人手不足の科は産婦人科,小児科だけでないことをもう少し理解してもらう必要があるかもしれません。
現在の学生,研修医は教育者の評価もしますし,ていねいに教育されることに慣れていますので,耳鼻咽喉科に入局後も同様な期待をもっていることが考えられます。『耳鼻咽喉科専門研修をはじめる医師へ』として特集を組み始めたのもその理由からです。これまで特集として執筆していただいた項目をいずれまとめられる機会があればと思っています。少ないスタッフでやりくりしている施設が多いと思いますが,新しく耳鼻咽喉科に入局した若手医師の教育に役立てていただければ幸いです。
Copyright © 2007, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.