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緑内障専門医にとって最もつらいのは,末期緑内障で中心視野も消失した患者さんから「死ぬ前にもう1度でいいですから,何とか物をしっかりと見てみたいものです」と訴えられるときです。そのようなときには自分の力の至らなさを実感するとともに,いくら進んだとはいえ,まだまだ医学は患者さんを救いきれていないことを痛感させられます。何とも致し方ないので,「医学は進歩していますから,せいぜい長生きしてください。そうすれば夢がかなえられる時代になりますよ」と答えて励ますことにしています。患者さんのなかには,そんな夢物語が本当にあるはずがないと疑いながらも,一縷の望みを抱きつつ治療の励みにしてくださっている方もおられます。
はたして20〜30年後に緑内障は,眼科医療はどうなっているのでしょうか。昨今の神経保護,神経再生研究の進歩や,コンピュータをはじめとする電子機器の進歩を見ていると,先に述べたような夢物語もあながち真っ赤なウソとばかりはいえないのではないかと思えてきます。20年前には夢物語だった携帯電話は今や1人に1台の時代となり,手のひらに乗るパソコンやウェアラブルコンピュータまで開発されています。20年後は無理でも30年後には失われた視機能を回復させるような治療法が一般的になっているかもしれません。あるいはvirtual reality技術が進歩して,視覚情報が眼球を介さずに脳に直接入力されているかもしれません。そのような時代では,眼球は睫毛や眉毛のような単なる装飾品になりさがってしまい,われわれ眼科医は完全に失業でしょうか。でも,私が現役で働いている間にはそのような状況になるとは思えないので,食い扶持にあぶれる心配はしなくてよさそうです。
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