連載 他科との連携
患者さん中心の治療を進めるために—Nさんのこと,Aさんのこと
鈴木 水音
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1東邦大学医学部第二眼科学教室
pp.1438-1439
発行日 2001年7月15日
Published Date 2001/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410907445
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15年ほど前,硝子体手術がまだ現在ほど一般的に行われていなかった頃,週3回の人工透析を受けていた65歳男性のNさんの,硝子体出血と牽引性網膜剥離を伴った増殖糖尿病網膜症(片眼は新生血管緑内障・視神経萎縮で既に光覚弁(−),手術予定眼は手動弁)に対して硝子体手術を予定していたところ,内科医からストップがかかった。「こんなに全身状態が悪いのに,4〜6時間の手術と術後腹臥位の姿勢をとらせるのは自殺行為だ。糖尿病で見えなくなるのは仕方がない。見えなくなっても,生きていたほうがいいだろう」,「いや,手術はやる!」,「手術はやらせない!」などと多少感情的になって内科医と衝突してしまった。
しかし結局,本人の強い希望があり,内科医を説得して,手術に踏み切った。術後矯正視力は0.1。Nさんは,数か月後腎不全,心不全によって亡くなられたが,「これから生きていくためにも,見えるようになりたい!」という強い希望を尊重し,手術に挑戦して,術後数か月ではあったが“明るい光り”を得たことは,Nさんにとって決して無駄ではなかった,と信じている。眼帯を外したときにNさんが涙を流しながら嬉しそうに言った「見えるよ!先生,ありがとう」という言葉が,今でも忘れられない。
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