老人ホームの訓練室から 極楽寺山通信・4
Nさんにとっての〈ロシア〉—隠喩としての老人の言動
三好 春樹
1
1特別養護老人ホーム“清鈴園”
pp.933-936
発行日 1984年8月1日
Published Date 1984/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661920854
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
Nさんの〈ロシア〉行き老人の〈わけの分からぬ〉言動
Nさんが,腰ひもにタオルや手ぬぐいをいっぱいぶら下げ始めた.ロシアへ行く準備である.Nさんは大柄なちょっとしたいい男で,かつてロシアか,ロシア国境に近い旧満州に暮らしていたことがあるらしく,ロシア娘にもてたのだそうだ.そのせいか,入園後しばらくして,前述の格好で園の外に出ようとし,‘どこに行くのか’と問う職員に‘ロシアへ行く’と答えたのである.
もちろん職員は,ここがどこであるのか,今が何年でNさんは何歳であるのか説明して,思いとどまらせようとする.‘リアル・オリエンテーション’,つまり現実認識をちゃんとしてもらおうというわけである.
Copyright © 1984, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.