特集 眼科臨床の進歩Ⅲ
環境と眼
環境に支配される眼疾患の臨床
萩野 鉚太郞
1
1名古屋大学環境医学研究所
pp.662-670
発行日 1955年4月15日
Published Date 1955/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410202201
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独り眼疾患のみに限らず,総べての疾患が,その個体の内的及び外的環境条件によつてその消長を左右されることは,臨床家が日々の臨床に於て常に経験し感ずるところである。従来眼科学の領域に於ては,全身病と眼病との相互関係の重要性が強調されている。明治37年河本重次郞先生が"全身眼病論"を書かれて以来,この極の論文・著書は決して少なくない。Groenouwの大著の如きよく人の知るところである。然し之等の多くは個体の内的環境の変化と視器との関係から,視器に於ける病変の発見が,全身病の発見及びこの予後判定或は治療の上に迄重大な意義をもたらす点に特殊性を見出している。
本文に述べんとするところは,この様な全身病と眼病との交渉に就ての事項に限られたものではない。かつて橋田邦彦先生は,生体の全機性論を提唱した。即ち生体の機能は生体を構成している各個の器官が主体となつて営まれる活動であるところの全的協調として現われるもので,個々の機能が個々独立なものとして現われることはない。各個の器官は常に協調して全一態活動の一部として活動しているものである。そして個体は絶えず外界(環境)に適応せしめ,外界を自己の環境として転換せしめつゝ,常に環境の中心として全としての生活を営みつゝ,個としての自己を維持するのであると説いている。
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