綜説
球後視束炎とわが國のいわゆる軸性視神經炎とはどこがちがうか?
桑島 治三郞
1
1東北大分院眼科
pp.353-357
発行日 1953年5月15日
Published Date 1953/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410201482
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多發硬化がわが國にも最もありふれた中枢神經疾患の一つであると敢て私が主張するにいたつたのは,珍奇を衒つたのでもなければ徒らに無用の論爭をおこそうとしたのでもなく,球後視束炎の概念が歐米のそれと同じものであるかぎり,わが國の症例もまたその多くが歐米にいう多發硬化にぞくしている專實を觀察し神經學的にも彼我の間に趣きを異にする特殊なものがないという根據をあげて,諸家の批判を求めんとしたにほかならない。
これに對し鈴木氏はいちはやく私の主張に賛意を表わし1)また最近わが國の慢性軸性視神經炎と多發硬化との關係,とくに同氏のいわゆる「慢軸」と歐米の球後視束炎とが果して同じものであるか否かを自ら問題としてとりあげ,併せて球後視束炎と多發硬化とが表裏一體をなすという私の見解に疑義を投げた2),この種の疑義は實は私に寄せられた數氏の私信などにも夫々の立場から表明された處であり,誤解を招き易い點であると共に最も重要な問題でもあるのでこれについて解説しておきたい。それについて私はあらかじめ次のことを明らかにしておく,すなわちその存在すら否定視されてきた多發硬化がわが國にもありふれた疾患であり然もその診斷は視束症状の神經眼科學的検索によつて確かめられるという私の主張は,少くともわが國では,從來の定説をやぶつたものといえよう,従つてこのような主張それ自身にまず嚴正な批判と検討とが加えられることはかねて私の期待した處でもある。
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