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はじめに
糖尿病黄斑症はいまや糖尿病網膜症患者の視力障害の原因として重要である。糖尿病黄斑症の有病率は増殖網膜症の有病率をわずかながら上回り,世界人口における推定有病者数は2100万人にのぼる1)。現在では糖尿病黄斑症を糖尿病網膜症全体の治療とは独立した治療の対象として捉えるようになったが,そのような研究の代表的な大規模臨床研究はEarly Treatment Diabetic Retinopathy Study(ETDRS)であろう。ETDRSでは糖尿病黄斑症の評価を正確なものとする目的で,黄斑部が複数枚の眼底写真に収まるように先行するDiabetic Retinopathy Study(DRS)研究(「増殖網膜症に対する汎網膜光凝固の効果」を検討)で用いられたmodified Airlie House fields 7方向ステレオ眼底写真の撮影方法を改変している。ETDRSの結果としては,毛細血管瘤からの漏出を主体とした局所性の黄斑浮腫に対する局所レーザー光凝固,びまん性黄斑浮腫に対するグリッドレーザー(格子状)光凝固の効果が確立された。レーザー治療は現在に至るまで,「視力の維持」が期待できる標準的治療として用いられている。同時に,糖尿病黄斑浮腫の治療として光凝固治療に加えてトリアムシノロンアセトニド(triamcinolone acetonide:TA)局所注射や抗血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)薬などさまざまな薬物療法が用いられるようになり,治療の目標が「視力の維持」から「視力の改善」へと転換しつつある。
その一方で,治療に伴う副作用や合併症の危惧もある。例えば黄斑局所レーザー,あるいはグリッドレーザーでは治療後の瘢痕拡大の可能性があり,一度瘢痕化した網膜はその後治療による改善は期待できない。局所注射として用いられるTA注射では眼圧上昇と白内障の進行がある。そして現在では抗VEGF薬の承認が待たれている状況であるが,繰り返し注射が必要なこと,臨床試験のような限定的な条件下ではなく,多様な患者を対象として抗VEGF療法が行われた際に,もともと虚血性心疾患や脳卒中の危険が高い糖尿病患者でそれらの循環器疾患発症の危険が高まるといったことが危惧される。
他方,網膜硝子体術者は以前から増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に黄斑浮腫が鎮静化することを経験しており,そこから「糖尿病黄斑浮腫の軽減を目的にした硝子体手術」が行われるようになった。その後,硝子体手術機器は技術の飛躍的な進歩を遂げ,従来の20G硝子体手術からより侵襲が低い23G,25Gあるいは27Gシステムといった小切開硝子体手術(micro-incision vitrectomy surgery:MIVS)へと移行し,特にわが国では糖尿病黄斑症の治療選択の1つになっている。しかしながら,糖尿病黄斑症に対する硝子体手術の効果をそれ以外の治療法と直接比較検討した臨床試験は限られており,硝子体手術の効果が十分に示されているとはいえない。薬物治療,特に認可が迫る抗VEGF療法によって治療期間の長期化,複数回の注射が必要であること,治療費用の増大などが予想されることから治療回数を減らしつつ,視力改善が得られる治療の選択肢として改めて硝子体手術への期待も高まっている。本稿では糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術について,その適応や効果,問題点などを概説する。
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