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はじめに
糖尿病黄斑症は糖尿病網膜症のすべての病期において発生しうる黄斑部の病態の総称であり,浮腫や虚血そして硝子体による牽引などさまざまな病変によって形成される。糖尿病黄斑症の多くは視力低下の原因となるが,本稿では黄斑症のなかでも頻度が高く,光凝固治療の適応となる糖尿病黄斑浮腫(diabetic macular edema:DME)について解説する。
DMEは糖尿病網膜症の全進行経過過程で認められ,単純糖尿病網膜症の段階であっても6%程度に生じ,視力低下の原因となるといわれる1)。増殖糖尿病網膜症のように失明の原因とはならないが,就労年齢層における社会的失明の原因として問題となる2)。DMEの病態は非常に複雑で,血管透過性亢進・血管閉塞による血流障害・膠質浸透圧低下・後部硝子体膜の牽引などさまざまな要因が関与して起こる。なかでも,血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)の血管透過性亢進作用がDME発症に果たす役割の大きさは疑う余地がなく,近年のDRCR. net,RESTORE,RISE and RIDE studyなどの大規模臨床研究における抗VEGF薬の良好な治療効果もこのことを裏付けている。わが国では,2013年8月に抗VEGF薬の1つであるラニビズマブ(ルセンティス®)で加齢黄斑変性に加え,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫および病的近視に伴う脈絡膜新生血管の適応が追加された。近い将来,DMEまで適応拡大される予定である。
前述したDRCR. netやRESTORE studyでは,DMEに対するラニビズマブの良好な治療効果だけではなく,ラニビズマブと光凝固治療(毛細血管瘤直接凝固・グリッド凝固)の比較検討も行われている。結果として,DRCR. net,RESTORE studyともにラニビズマブ単独もしくはラニビズマブと光凝固併用群において光凝固単独群より視力の改善率が良好であったと報告している3~6)。筆者らの施設においても適応外使用ではあるが,図1のように中心窩を含み難治性のDMEに対して抗VEGF抗体の1つであるベバシズマブ(アバスチン®)を用い,即効性のある治療効果を経験しており,前述したような大規模studyの結果も踏まえると,今後抗VEGF療法がDME治療の中心となることに疑念の余地はない。しかしながら,抗VEGF療法には頻回の硝子体注射による眼内炎のリスク,経済的・社会的な患者側の負担や施行する医師側の負担などさまざまな問題が残る。また,実際の臨床の場においては,局所的黄斑浮腫では光凝固単独でも有効な治療効果を経験することは少なくなく,抗VEGF療法の時代に移行しつつある今だからこそ,DME治療における光凝固の意義を再考することは重要なことと思われる。本稿ではDME治療としての光凝固において,従来よりスタンダードに用いられている毛細血管瘤直接凝固・グリッド凝固,汎網膜光凝固と近年その侵襲の少なさと治療効果から注目を集めている閾値下凝固について概説する。
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