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大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した船橋洋一氏の「カウントダウンメルトダウン」という本を読みました。福島第一原子力発電所の事故について,徹底的な調査に基づいて書かれた本です。これを読むと,福島原発事故は,ほんの少し運が悪ければ,東日本はおろか日本全土が消滅したほどの歴史的重大事故であったことが,わかります。このような文書は,今後の政策立案や判断に欠くべからざる重要な記録となり得ます。昨今は,電子媒体による音声や画像の直接記録のほうが,文書記録よりも客観性に優れており,今後の主流になると喧伝されていますが,電子媒体は加工が容易であり普遍的信頼性があるとはいえません。勿論,文書記録も加工可能ですが,信頼性評価法が確立しており,少なくとも後世の判断材料にはなり得ます。文書記録の重要性は今後も減ずることはないでしょう。このことは科学においては,一層真実であり,科学における文書とは論文に他なりません。
さて,今月は臨床眼科学会講演集の特集号です。本誌査読委員としての経験では,大学からの投稿論文は,一般的にスタイルや内容が整い,安心して読めるものが多いといえます。一方,開業医や市中病院からの投稿には,論文の形式が整っておらず,論文の体をなしてないものも時にはあります。しかしながら,むしろそれらの投稿論文から,投稿者の情熱が伝わってくることが少なくありません。まして,それらは忙しい診療の合間に書かれたものであることを理解しておりますので,何とか論文になるように,助言させていただいております。時には,厳しい意見を出すこともあるでしょうが,この段階こそが文書としての信頼性を保証するものであり,これを経ないものは論文としては認められません。助言を取り入れて完成した論文は,後世の判断を受け得る文書になりますし,投稿者は大きな達成感を得ることができるでしょう。学会発表だけでは,正式な記録になりません。私たちも努力しますので,大学勤務医,開業医を問わずに,これからも本誌に投稿していただきたいと思います。
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