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はじめに
甲状腺ホルモンは細胞代謝亢進作用を有するホルモンであり,脊椎動物のほとんどにみられる。トリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)が代表的であり,生理活性はT3のほうが強いが血中に存在するのは大部分がT4である。
甲状腺眼症は甲状腺疾患に関係して産生された自己抗体が,類似した受容体の存在する眼窩脂肪や外眼筋などの球後組織を標的として惹起する炎症性疾患と考えられている。そのため甲状腺疾患の発症に前後して,両眼性あるいは片眼性の眼瞼後退や眼球突出などの特徴的な眼症状を示す。
甲状腺眼症をきたす代表的な疾患は甲状腺機能亢進症である。ヒトの甲状腺機能亢進症を日本ではBasedow病と呼ぶのが一般的であるが,英語圏ではGraves diseaseとも呼ばれる。Basedow病ではMerseburgの3主徴として甲状腺腫,頻脈,眼球突出が知られており,約半数の患者に眼球突出がみられる。また未治療のBasedow病では,軽度のものも含めると80%以上に甲状腺眼症がみられるとの報告もある1)。甲状腺機能亢進症は甲状腺ホルモン作用が過剰になるヒトの代表的代謝内分泌疾患であるが,家ネコにも頻繁にみられる。家ネコの場合は,家具や家電製品の防火物質として広く使われているポリ臭化ジフェニルエーテルが,内分泌攪乱物質として関連している可能性が指摘されている。
また,臨床的には典型的な甲状腺眼症を示すが甲状腺機能が正常なeuthyroid Graves disease(euthyroid ophthalmopathy)の存在2)や,甲状腺機能が低下する橋本病でも眼球突出や眼瞼後退が生じることが知られている3)。つまり甲状腺機能が亢進していなくても甲状腺眼症は生じ得る。さらには自己抗体陰性の甲状腺乳頭癌でもeuthyroid ophthalmopathyを生じたという報告もあり4),甲状腺眼症と自己抗体の関係はすべてが明らかにされているわけではない。
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