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はじめに
糖尿病に合併するぶどう膜炎は,糖尿病網膜症や白内障に比較して多いものではないがときどき遭遇する。しかしほんとうに糖尿病に「合併」しているのか,たまたま両者が同時にみられるのかは議論のあるところである。かつては代謝疾患である糖尿病に炎症である虹彩炎が合併することは理論的に成り立たない,との考えが強かった。しかし,近年の研究によれば,炎症反応は免疫異常性疾患以外にも広く関与していることが判明し,一概に炎症の存在を否定することはできない。また実際に臨床の場で遭遇する「糖尿病患者の虹彩炎」はある程度特徴がある1)。
糖尿病は現在,日本での患者数は700万人といわれており,増加を続けている。しかし近代に突然出現した疾患ではなく,古くは古代ローマ時代にもそれらしい症状の記載がある。平安時代の藤原摂関家には「飲水病」の者が多く,摂関政治の黄金時代を築いた藤原道長もまた飲水病であった。当時の第一級史料である『小右記』によると,晩年は昼夜を問わず水を飲み,脱力感と胸苦を訴えている。また,有名な「この世をば我が世とぞ思う望月の欠けたることも無しと思えば」の短歌を詠んだ頃には視力が非常に低下しており,近くの人の顔も判別できないことが,自身の日記『御堂関白記』に書かれている。これは網膜症,白内障,あるいは緑内障や虹彩後癒着などの眼合併症の可能性が考えられる。そのため,藤原道長はインスリンの結晶とともに1994年に日本で開催された第15回国際糖尿病会議の記念切手のデザインに採用されている(図1)。道長の叔父,兄,甥も飲水病=糖尿病であったことを考えると,肥満や運動不足以外に遺伝素因もあった可能性がある。いずれにしても,平安時代には既に糖尿病患者がいたことになる。
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