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第63回日本臨床眼科学会が終わりました。母校が主催校であったため贔屓眼に見てしまうことを差し引いても,素晴らしい学会であったと思います。そのなかで特に印象に残ったのは,Ryan教授の特別講演でした。トランスレーショナル研究に関する講演でしたが,基礎研究,臨床医学,医薬産業が互いに結び付いて新しい治療を患者に提供し,さらにそれが新しい産業を作り出している今の状況を解説し,“Golden Age”という言葉で讃えられていました。ただし,これを額面どおりに受け止めるのは短慮でしょう。「これは,医学産業における米国の圧倒的勝利宣言ではないか?」と講演後にたずねたら,「でも米国は医療保険が最悪だからね」とウインクしながら答えられたところを見ると図星でしょう。医学は21世紀の主要産業になるといわれていますが,この分野でわが国が生き抜いていくには,優れた戦略と相当な努力が必要であると感じました。
さて,本号の「今月の話題」は抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎です。中尾雄三先生が,本文文頭に「視神経炎の診断,治療,予後に関して,いままでの眼科の教科書を書き換える云々」と書かれていますが,決して誇張ではありません。偶然ですが,数か月前から私が診察していた原因不明の視神経炎の患者さんが同疾患であることがわかり,血漿交換治療を行ったところ,手動弁であった視力がわずか1週間で0.9に回復しました。この疾患の概念,治療法の出現があと数年遅かったら,件の患者さんは両眼失明していたでしょう。医学の進歩に感謝するとともに,医師は常に最新の知識を得る必要があることを痛感しました。いくら“Golden Age”に生きていても,医師にその知識がなければ,患者さんは救われません。編集委員としては,最新の知識を提供できるように努力する所存です。
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