やさしい目で きびしい目で 39
患者に優しい医療と厳しい医療改革―都心の勤務医の葛藤
大越 貴志子
1
1聖路加国際病院眼科
pp.339
発行日 2003年3月15日
Published Date 2003/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410101151
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私は20年前から東京都中央区の聖路加国際病院に勤務し,網膜硝子体を専門に治療を行っているが,都心でも,時々驚くような症例を経験する。この女性もその1人だ。63歳。なぜか半年以上放置した網膜剝離で,無論,増殖硝子体網膜症になっている。まず散瞳薬の点眼を拒否されたため,看護師が10分以上時間をかけて説得し,ようやく眼底検査を行い,手術を勧めたが,納得がいかない様子。忙しい外来の最中に,手術をするしないで30分以上時間をかけてよく話し合ったが,その日は結論は出ず,その後,インターネットで網膜剝離の情報を得た娘さんの説得があり,理解し納得できたとのことで,医師のムンテラよりもインターネットの情報を信じ,手術を受けることになった。ところが,今度は友人のアドバイスとやらで手術方法について一悶着あり,失明をくい止めるためと思い,誠心誠意時間をかけて説得したが話がかみ合わず,最後は,「この病院はキリスト教精神に従ったすばらしい病院と思っていた。見えなくなったらこの病院で手術を受けるんだと長年思っていた。それなのに,医師はみな身勝手で患者の気持ちを理解してくれない」と部長にまで捨てぜりふを残し,帰っていった。もう二度と来ないと思ったら,再度手術を受けたいとのことで1週間後に来院した。幸い手術も成功し,事なきを得たが,スタッフ一同みな振り回され疲れ果てた。
都心では,医療情報過多であり,かつ病院の数も多い。セカンドオピニオン,サードオピニオンを求めて受診する患者さんも多い。すべての患者さんに丁寧に接し,かつ正しい医療を行うには相当のエネルギーと時間を要する。
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