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Ⅰ.胞状奇胎に関する免疫学的概念
正常な妊娠物conceptusが,精子と卵子の1対1の受精により形成されるのに対し,全胞状奇胎total hydatidiform mole (以下奇胎)は細胞遺伝学的解析により,精子の核成分と卵子の細胞質より発生するいわゆる雄核発生androgenasisであることが明らかになっている。すなわち,Q—,R—分染法による染色体分析から,奇胎染色体には母親由来の染色体は存在せず,父親の相同染色体の一方にのみその由来が求められることが判明した1,2)。
従来より奇胎の発生に関し,trophoblastの腫瘍性増殖がprimaryな病態であり,奇胎,侵入奇胎,絨毛癌からなる絨毛性疾患を一連の腫瘍であるとする説も提唱されてきたが,今日では,この雄核発生による胎芽死亡あるいは胎芽発生欠如に続発する一種の自然流産あるいは稽留流産であるとする考え方が一般的となっている3)。多くの自然流産のconceptusに染色体異常が見出されることは周知の事実である。しかし,奇胎では胎芽死亡後conceptusは比較的長期にわたり子宮内に存続し,付属する絨毛組織には絨毛間質の水腫変性hydrop-degeneration,絨毛内血管の欠如avascularity,troPho-blastの種々の程度の増殖trophoblastic hyperplasia等の形態上の特徴があり,自然流産において,胎芽死亡後間もなくconceptusが子宮外に排出され,絨毛組織が変性壊死に陥っているのとは対照的である。また奇胎では,転移奇胎,侵入奇胎という病態が存在し,さらに絨毛癌を高率に発生する等の点で自然流産とは著しく様相を異にしている。
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