明日への展開--ヒューマンバイオロジーの視点から 生殖免疫
自然流産と胞状奇胎—その免疫的背景
金沢 浩二
1
,
竹内 正七
1
Koji Kanazawa
1
,
Shoshichi Takeuchi
1
1新潟大学医学部産科婦人科学教室
pp.635-640
発行日 1984年8月10日
Published Date 1984/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409207037
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
妊孕現象は,これを免疫学的見地からみるとき,幾つかの点において,我々に自然の実験systemを賦与しているとみなすことができる。たとえば,ある妊娠母体が自己免疫疾患であった場合,その新生児に一過件ながら母体と類似の臨床症候を観察することがある。その母体の産生した自己抗体が経胎盤性に胎児に移行した結果と理解される。自己免疫疾患では通常複数の自己抗体の産生されていることが証明されているが,そのすべてが臨床病態の発現と結びついているわけではない。IgG,A,MDEのうち経胎盤性に移行できるのはIgGのみであるから,児に発現する臨床症候を解析することによって,それぞれの自己抗体の病因論的意義を解明することが可能となる。次に,さらに基本的な問題として,妊孕現象そのものが自然に成立維持されている同種移植であるとみなすことができる。したがって,その成立維持にどのような免疫的機構が関与しているかを解明できるならば,それは臓器移植や癌の免疫学的研究の場にこの上もない有意義な情報を提供することになるであろう。しかし,残念ながら,この免疫的機構はなお多くは謎の中にある。本稿の課題である自然流産と胞状奇胎とは,これを現在まで解明されてきた妊孕の免疫的維持機構の中で考察してみる時,それはきわめて対比的であり,両者をさらに解析していくならば,逆に,妊孕の成立維持機構を免疫学的に解明する場に有効な情報を提供することにもなると考えられる。
Copyright © 1984, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.