ヒューマンバイオロジー--臨床への展開 妊娠中毒症
妊娠中毒症の遺伝的背景
中林 正雄
1
,
坂元 正一
1
,
関 博之
2
,
水野 正彦
2
,
佐藤 和雄
3
Masao Nakabayashi
1
,
Shoichi Sakamoto
1
,
Hiroyuki Seki
2
,
Masahiko Mizuno
2
,
Kazuo Sato
3
1東京女子医科大学母子総合医療センター
2東京大学医学部産婦人科教室
3埼玉医科大学総合医療センター産婦人科
pp.849-852
発行日 1985年11月10日
Published Date 1985/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409207275
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妊娠中毒症は高血圧,蛋白尿,浮腫を3大徴候とする症候群であるが,その成因,病態は不明な点が多い。したがってその治療法も対症療法の域を脱しておらず,いまだに妊婦における重要な合併症として注目されている。
妊娠中毒症の成因探求の歴史を見ると,細菌説,胎盤毒物説,内分泌失調説,アレルギー説,神経反応説など枚挙にいとまがないほど多く,まさにZweifelのいう"学説の疾患"といえるであろう。これら学説がいずれも妊娠中毒症の成因を完全に説明できなかったのは,全ての妊娠中毒症を一元論的な考え方で解明しようとしたところに無理があったと思われる。現在はこのような一元論的な考え方にかわって多元論的な考え方がなされるようになってきている。すなわち,妊娠という負荷がかかった場合に,生体が順応できずにいろいろの症状が起こる,いわゆる"適応不全症候群"として捉えられている。このような適応不全症候群の病態として,さらにそれに対応する恒常性維持機構の反応として血管平滑筋の感受性の増加,ミネラルコルチコイドなどの体液性因子の増加,レニン・アンギオテンシン系の変動,プロスタグランディン(特にPGI2やトロンボキサン)などの局所循環調節因子の変化や凝固線溶系の活性化などが起こり,最終的には妊娠中毒症の病像を形成してゆくものと考えられている。
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