明日への展開--ヒューマンバイオロジーの視点から 胎児--その自立と依存
Topics
胎児発育と甲状腺ホルモン末梢代謝
杉本 充弘
1,2
,
水野 正彦
2
,
坂元 正一
3
Mitsuhiro Sugimoto
1,2
,
Masahiko Mizuno
2
,
Shoichi Sakamoto
3
1日立総合病院産婦人科
2東京大学産婦人科
3東京女子医大産婦人科
pp.939-943
発行日 1984年12月10日
Published Date 1984/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409207100
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下垂体—甲状腺系の成熟は妊娠20週頃に始まると考えられている1)。胎児血中サイロキシン(T4),遊離型サイロキシン(free T4)は妊娠20週頃より徐々に増加し,末期には母体と同程度の値となる2)。しかし,主としてT4の末梢代謝によって生ずる活性型の甲状腺ホルモンである3,5,3'—トリヨードサイロニン(T3の血中濃度は,妊娠全期間を通じて極めて低く,末期でも成人の1/2以下低値である3,4)。これは,胎児が発育・成熟するために最適な生体代謝が営まれており,そのためにはT3低値という内部環境が必要であることを想像させる。
T4の末梢代謝は主として脱ヨード反応であり,outerringの5'—脱ヨード反応によりT3を生じ,inner ringの5—脱ヨード反応により生物活性のない3,3',5'—トリヨードサイロニン(reverse T3,rT3)を産生する(図1)。胎児では母体に比較し,強い甲状腺ホルモン作用をもつT3の血中濃度は極めて低く,生物学的活性のないrT3の血中濃度は著しく高い3,4)。この事実から,胎児臓器でのT4脱ヨード反応の機序は成人とは著しく異なると推測される。
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