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3月15日に安倍晋三首相が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への交渉参加を表明されました.TPPは民主党政権の時からの懸案事項であり,幅広い分野を対象とした自由度の高い包括的な連携協定です.輸出の伸びが期待される大手企業の製造関係者にとっては朗報になります.一方,関税の撤廃により諸外国から米などの安い農作物の流入が予想される農業界はとても心配しています.肝心の医学・医療分野への影響が気懸かりです.現在,医薬品や医療機器の輸出入の自由化,医療関連人材の受け入れや流出の活性化,医療保険への海外からの参入,混合診療の解禁,医学・医療の営利産業化などが考えられており,賛否両論が渦巻いているようです.肯定的には医学研究や医療技術の競争の激化によりレベルが向上すると考えられています.また,現在の公的医療保険制度と経済状態が続くことで危惧される“医療が平等に貧しくなる”ことからの脱却も期待されています.一方,高額な医薬品・医療機器の普及や医療技術の高度化・高価格化により医療費が高騰する恐れがあります.また混合診療の拡大による公的医療保険制度の縮小や崩壊も懸念されています.何だか市場原理主義が生んだ先端医療の華々しさの陰に無保険者が6人に1人の割合でいる米国の医療を彷彿とさせます.
さて,今月号の視座は,未曾有の超高齢社会の到来と膨大な国債残高で喘いでいるわが国の今後の運動器診療についての卓見です.現在の経済状況のまま社会保障費が急上昇し続けると診断方法や治療手段がさらに制約を受ける懸念があります.冒頭に述べたTPPへの参入の功罪を含め将来の医療経済のあるべき姿についての議論が必要になっています.連載には竹光義治旭川医科大学名誉教授の「脊柱後弯症の手術」と小野啓郎大阪大学名誉教授の「『先天性』股関節脱臼の治療史」があり,それぞれの歴史的背景と発展してきた経緯を具に知る絶好の機会です.調査報告,臨床経験,症例報告などにも豊富な話題とともに実際的に役立つ知識が満載されています.
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