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さる10月6日,鈴木章先生(北大名誉教授),根岸英一先生(米パデュー大特別教授)のノーベル化学賞受賞に日本中が沸きました.「有機合成におけるパラジウム触媒を用いたクロスカップリング技術の開発・実用化」によるものです.パラジウムは,昨今話題になっているレアメタルの一つですが,ロシアと南アフリカが世界の約90%を産出しており中国産は少ないようです.日本人の授賞は,研究者にとって大変励みになりましたが,両先生のインタビュー記事は,われわれ整形外科医にとっても大変示唆に富んでいますので,ここに紹介いたします.「教科書に載るような研究をせよ(鈴木)」「画期的な発見をするには,現象や自然を直視する謙虚な心と,小さな光も見逃さない注意力と旺盛な研究意欲が必要だ.神が与える幸運もあるが,手を抜いては決して幸運はやってこない(鈴木)」「世の中の役に立たなければならない.つまり,利益を生まなければならないということ(根岸)」.
また,大変興味深いのは,両氏とも本技術の特許化を意図的に行わなかったと述べています.経済的なメリットは逃したかもしれませんが,特許を取らなかったことで技術は世界へ広く普及し,研究者最高の栄誉へと道を開く一因になったとも考えられます.特許取得については,時代の変化にも影響され,賛否両論があります.現在では,特許取得がないと,研究の推進や臨床試験そのものが困難になるという状況となっております.おりしも,再生医療の切り札として期待されるヒトiPS細胞を臨床応用するため,世界初の臨床研究指針(厚生労働省)が作成され,11月1日から施行されました.日本整形外科学会会員である山中伸弥先生が近い将来,鈴木先生,根岸先生に続くことを期待しています.
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