外科医のための局所解剖学序説・1【新連載】
頸部の構造 1
佐々木 克典
1
1山形大学医学部解剖学第一講座
pp.1017-1026
発行日 1996年8月20日
Published Date 1996/8/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407902372
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熟練した外科医は解剖に熟知しているのが常であり,解剖学者が改めてここで局所解剖を語る意義は少ない.しかし,私自身の経験から,卒後まだ日の浅い若き術者は,学生時代に学んだ解剖をうまく使えないということに,もどかしく思うのではないかと想像する.本来,解剖学教育は解剖を終えた時点ですでに人体にアプローチできるだけの能力を与えるべきものと考えるが,実際はほど遠い.Leriche症候群で知られている RenéLericheは「死体解剖実習はきわめて多くの時間を浪費し,未来の外科医にとってさえもほとんど役に立たぬ」と述べている.極論ではあるが,頷かれる方も少なくないであろう.原因は教育の方法にある.しかし,今それを述べても仕方ないことであり,この連載では教育と実際の臨床の間に横たわるギャップを埋めてみようと思う.
医学を志した人間ならば,解剖は本質的に楽しいはずであるが,往々にして強いられる用語の記憶などで,その気持ちが次第に褪せていくことが多いように思う.しかし,人体構造の機微を一度でも自ら体得できれば,突如として解剖のおもしろさがわかるようになる.私は毎年,実習も含め三十数体の遺体と向き合うが,繰り返すごとに新鮮な印象を受ける.人体にはカギになる構造があり,それを見つけることで多くのことが氷解し,深く理解することができるようになるからである.
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