特集 術後感染症—予防と治療の実際
[エディトリアル]術後感染症の現状
玉熊 正悦
1
,
小野 聡
1
Shoetsu TAMAKUMA
1
1防衛医科大学校第1外科
pp.413-417
発行日 1996年4月20日
Published Date 1996/4/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407902254
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はじめに
一般に,手術は出血ならびに疼痛の制御との戦いであると同様,感染との戦いでもある.19世紀後半のLister,Schimmelbushらによる外科への消毒原理の導入や,20世紀前半のDomagk,Fleming,Floreyらによる抗菌化学療法の誕生は,ともに外科の感染制御に飛躍的な貢献をし,手術成績を向上させ,手術侵襲の拡大を可能にした.その後の抗生物質の開発は目覚ましく,一部の法定伝染病を含め多くの急性化膿性疾患が征服されたが,外科医は今日でも物心両面から感染の制御に莫大な精力を費しているのが実情である.
外科領域における最近の関心の筆頭は,現代人の恐怖の的である癌の克服と移植医療の前進であろうが,その癌患者の直接死因は,感染の合併が出血,臓器不全,悪液質などを抜いて首位を占めているし,臓器を移植された患者のその後の経過中にみられる合併症の約半数は免疫不全を背景とした感染症であると聞いている,いずれも,今日の外科臨床に占める感染対策の重要性を物語る.人類の歴史は細菌やウイルスとの戦いの歴史ともいわれるが,外科領域では今日でもなお一貫して感染との戦いが続いている.外科医としての能力や手腕には,診断学や手術技能のほかに,感染症の処置に大切な微生物学,免疫学,薬理学などの知識も不可欠なことを始めに強調したい.
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