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松本と東京のサリン事件,和歌山の亜ヒ酸混入事件に薬毒物が使用された1).これらを契機に,平成10(1998)年度の救命救急センター等毒劇物解析機器整備事業により,高速液体クロマトグラフなどの毒劇物分析機器が73か所の救命救急センターに配備された.新たに薬毒物検査を開始する施設も増加している.2004年12月にも東京の地下鉄内でクレゾール原液による事件が発生するなど,最近約10年間に臨床検査現場などで救急搬送された患者の検体から薬毒物を検査する機会が増加した.自殺企図や薬毒物の誤嚥,事故・災害が発生した際,薬毒物検査を行う最大の目的は中毒患者の救命であり,適切な治療をバックアップすることである.特に大規模災害発生時には,多くの病院で様々な薬毒物検査実施依頼や相談を受ける必要を迫られる2).臨床薬毒物検査では裁証学的精密性の大切さを考慮しつつ,迅速性が重要である.そのためには,簡便かつ迅速な検査で臨床判断を助ける適切な情報提供ができる体制づくりが第一歩である.もちろん,これに続いて確認検査が必要となることはいうまでもない.
中毒起因物質には何が想定されるのか? 日本中毒情報センターの受信報告(2003年)によると,問い合わせ件数は,洗浄剤などの家庭用品:274件,中枢神経用薬などの医療用医薬品:561件,一般医薬品:378件,殺虫剤などの農業用品:310件,きのこなどの自然毒:6件,ガスなどの工業用品:80件,乱用薬物その他:13件となり,その総数は決して少なくない1).また,服用薬毒物に関する情報が同時に持ち込まれることも多い.さらに臨床的判断による治療開始と薬毒物検査実施が同時進行となることがほとんどである.したがって,薬毒物検査を実施するわれわれは,「先生のお考えはどうですか?」と担当医に尋ね,臨床情報を入手する必要がある.その結果を踏まえつつ,ピットフォールを十分わきまえ,迅速に検査を行い,トライエージDOAなどの迅速検査結果が出た場合には,速やかに報告し治療に役立てる.広範囲な薬毒物迅速検査の実施による候補薬毒物の絞り込みとインターネットなどによる情報検索・情報発信を同時に行うことも有用である3).
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