特集 外科患者・薬物療法マニュアル
Ⅰ.救急患者のプライマリ・ケアにおける薬物療法
2.脳蘇生
三井 香児
1
1東京大学医学部救急部
pp.12-13
発行日 1992年10月30日
Published Date 1992/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407900918
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脳蘇生とは,頭部外傷や脳血管障害などの一次的脳損傷,心肺停止,その他の原因による二次的脳損傷の区別を問わず,脳損傷の改善を指向する治療を意味する.しかし,開頭手術や頭蓋内血腫の除去などの治療法は,脳神経外科などにおける一般的治療法であり,脳蘇生とは呼ばれない.重篤な脳損傷が脳死や植物状態に至るのを防ぐ,やや高度の治療を現在のところ脳蘇生と称している.もっとも,一般の人々への普及をすすめ,救急隊員が日常的に実施している心肺停止状態に対する心肺蘇生も脳蘇生を目指すものである.
医療機関において脳蘇生治療を実施する場合,手術療法,薬物療法,呼吸・循環管理を中心とする全身管理など可能な限りの方法が採用されることになる.ところが,脳蘇生に有効な薬物はいまだほとんどなきに等しい.臨床上,最悪状態である脳死に至れば脳蘇生は不成功ということになるが,脳死へと進行する病態には,なお不明確な部分が多い.脳の循環代謝障害により脳浮腫・脳腫脹が進行し,頭蓋内圧(脳圧,intracranial pres-sure:ICP)が上昇する結果,脳循環の停止が発生するという経路が中心であると考えられている.したがって,脳死を防ぐためにはICPをコントロールすることが現状では最も主要な治療法となっている.ICP降下薬すなわち脳蘇生薬とはいい切れないが,ICP降下薬を重篤な脳損傷によるICP亢進に対して用いる状況を中心に述べる.
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