昨日の患者
失われた父親の権威
中川 国利
1
1日本赤十字社東北ブロック血液センター
pp.247
発行日 2019年10月22日
Published Date 2019/10/22
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407212706
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社会からは有能な医師として評価されているベテラン外科医でも,日常生活を共にしている家族からの信頼を保ち続けることは至難の技である.診断が特に困難な急性疾患の初期段階で息子の病気を誤診し,家族からの信頼を失った先輩外科医S先生を紹介する.
30年ほど前にもなるが,一緒に勤めていたS先生の奥さんが小学生の息子を連れて私の外来を受診した.息子は2日前から心窩部痛そして右下腹部痛が生じ,38℃台の発熱を訴えていた.そこでベッドに横たえ,右下腹部を触れた.すると著明な筋性防御を伴う圧痛を認め,典型的な急性虫垂炎の症状を呈していたため,急性虫垂炎と診断した.また血液検査では白血球数やCRPの著明な増加を,腹部超音波検査でも虫垂壁肥厚や膿瘍を認め,明白な虫垂炎所見であった.そこで父親であるS先生に報告した.するとS先生も急性虫垂炎と診断し,自らが主治医として息子の虫垂切除術を施行した.虫垂は穿孔し,周囲に膿瘍を形成していたが,手術は順調に終了した.
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