ひとやすみ・177
トラウマ転じて権威者となる
中川 国利
1
1日本赤十字社東北ブロック血液センター
pp.675
発行日 2019年6月20日
Published Date 2019/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407212494
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苦境に立たされさまざまな批判を浴びると,後々まで苦い思い出となり,同じ境遇に陥ると身構えがちになる.しかしトラウマも時を経ると全てが肥やしとなり,さらにはその道の権威となる.
老練の外科教授らに対抗し,全国の血気盛んな若い外科医らが胆道外科研究会を創設し,第一回として術中胆道損傷についてだけ丸一日討議することになった.その栄えある初回の演題番号第一席を,当時研修3年目の私が務めることになった.臨床経験が少なく,いわんや胆道損傷も未経験であったが,研修施設の成績や治療方針などを報告した.そして質問時間を大幅に延長して質疑の集中砲火を浴びた.学会で常に威勢の良い発言を行い,物議を醸す外科ボスが不在であり,孤立無援な私は返答に苦慮した.同情した司会者から,「これからも同じ内容の演題が続きますので」と,救済の手が差し伸べられ,苦境から脱することができた.帰院後に外科ボスに報告すると,「研修医には厳しすぎる.俺が必ず仇を取ってやる」と,慰められた.
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