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本特集冒頭に「消化管のなかで,栄養の吸収を行う唯一の器官である小腸は消化管の要である」とある.しかしながら,筆者が外科医になった頃は(およそ30年前),「暗黒の臓器」といわれていた小腸である.本当に病気がなかったのか,あるいは診断する技術がなかっただけなのかは定かではないが,外科医として小腸への関心はほとんどなかったと記憶している.本特集を読んでいただければ一目瞭然であるが,小腸は「暗黒の臓器」ではなくなったのである.むしろ,栄養,免疫など極めてhomeostasisを維持するのに不可欠な器官であり,様々な疾患も発生する.さらに,まだまだ発展途上であるが,それらを知る術も身近になってきた.読者に小腸は重要な臓器なのだ,ということを認識していただくことが,本特集の目的であり,理解いただければ筆者としても望外の喜びである.
筆者が感銘を受けた書のひとつに木村資生先生の『生物進化を考える』(岩波新書)がある.木村先生は「分子進化の中立説」を提唱した非常に高名な学者である.機会があればぜひ一読いただきたい.その書のなかに,地球を1年(誕生から現在までを1年とすると)としたカレンダーがある.生命の原型である真核生物が誕生したのは8月上旬,それから徐々に徐々に進化し(遺伝子変化が蓄積,ただし基本構造はご承知のように変わっていない!),人類が出現したのは12月31日午後8時とある.文明が誕生したのが,12月31日午後11時59分(1万年前),生命現象を解き明かそうとしている自然科学の歴史(約300年)は1年の最後のわずか2秒である.わずか2秒で,この歴史(遺伝子)の蓄積をすべてわかるはずもなく,まだまだ未知のことは沢山あるのだろうと感じている.小腸もその代表的な臓器である.これからの発展が大いに楽しみである.
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