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あとがき
桑野 博行
pp.630
発行日 2013年5月20日
Published Date 2013/5/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407104597
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2013年1月の大学入試センター試験の「国語」の現代文の問題に,故 小林秀雄氏(1902~1983年)の刀剣の鐔★つば☆の美しさが語られた評論,「鐔」が出題されました.単純な,もしくは素直な筋書きで読むと,場合によっては逆の解釈になる恐れもあるような氏の評論ですが,この文章を大学入試センター試験に採用したことへの意見は,難易度が上がったことも相まって様々のようでした.思い返しますと,私たちの世代が受験期の頃には,小林秀雄氏は故 亀井勝一郎氏と並んで試験問題の定番でした.以来,多くの小林秀雄氏の文章に慣れ親しみ愛読してきた者として大変興味深く今回の問題を読み,解答を試みました.一方で,受験の頃の自身を思い出しながら懐かしい思いに浸ることができました.氏の評論は読み解くのに難解な部分も多いのですが,一方で「端的」に表現される文章もあり,難解であるからこそ,その「端的」な文章が際立っているようにも思います.
「上手に語れる経験なぞは,経験でもなんでもない.はっきりと語れる自己などは,自己でもなんでもない」(「カラマーゾフの兄弟」),
「美しい『花』がある.『花』の美しさというものはない」(「当麻★たいま☆」)
「筆を動かしてみないと考えは浮かばぬし,進展もしない」(「学問」)
「人間は歴史を持つ.社会だけなら蟻でも持つ」(「プルターク英雄伝」)
などの名言が鮮明によみがえってきました.
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